2017年08月07日

『ベルギー奇想の系譜』を観ました

6日の日曜、家族で『ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで』を観てきました。

会期 2017年7月15日(土)〜 9月24日(日)
*7/18(火)、 8/22(火)は休館
開館時間 午前10時〜午後6時(金・土曜日は午後9時まで)*入場は閉館30分前まで
観覧料 一般 1,500円/高大生 1,000円/小中生 700円
会場 Bunkamuraザ・ミュージアム

開場前にちょっとだけ行列。会場内ではスムースに閲覧できました。
展示はT〜Vに分かれていました。

Tは「15-17世紀のフランドル美術」

ヒエロニムス・ボスの工房や、ボスに影響を受けた画家たちの作品が主。
ボス自身の作品はありませんが、「第二のボス」と言われるピーテル・ブリューゲルの原画は『大きな魚は小さな魚を食う』や『七つの大罪』シリーズなど充実。
ルーベンスの原画もあります。ルーベンスが奇想の系譜というのはすこし意外ですが、『反逆天使と戦う天使聖ミカエル』などに登場するマッチョな悪魔たちの姿態は確かに奇想かも。


Uは「19世紀末から20世紀初頭のベルギー象徴派、表現主義」

ロップス、クノップフ、デルヴィル、アンソールといった画家の作品中心。
わたしは知らない画家ばかりだったので新鮮でした。
ポーの短編小説に画題を得たデルヴィルの『赤死病の仮面』は本当におそろしい!
アンソールの作品は、とんがった自意識そのままのような筆致が面白かったです。


Vは「20世紀のシュルレアリスムから現代まで」

シュールの御大マグリットらの作品から、2000年代の現代作家らのシュルリアリズム作品。
あざといほどインパクトがあり、皮肉もきいているのは

・肋骨の内側に金塊を入れ、口に絵筆を咥えた状態で吊るされた骸骨の頭が、ティンパニーに単調なリズムを刻む、コーペルスの『ティンパニー』(展示作品は動きませんが、演奏?している動画が見られる)

・肥大化した頭の重さに耐えられなくなった男のブロンズ像、ルルイの『生き残るには脳が足りない』

の2点の立体作品。

絵画では、コルディエの『狂った森』の森の闇が印象に残りました。

分類としてはVですが、展示はトップバッターだったファーブルの『フランダースの騎士(絶望の騎士)』は、たくさんの青い甲虫の死骸でできた騎士の頭部が、戦争につきものの大量死を思わせる作品。

朝、広島の平和祈念式典をテレビで見てから来ただけに、いろいろ考えながら見入ってしまいました。

ボスのルーツであるフランドル地方は、中世に栄えた、オランダ・ベルギー・フランスにまたがる地域の呼称。
肥沃なことから、利権をめぐって抗争の絶えない土地だったそうです。
ボスやボスのシンパが育んだ奇妙で奇抜な芸術は、過酷な現実の中で生きるために必要だったシニカルな哲学のあらわれなのかもしれません。

10歳の子どもも飽きることなく、音声ガイド(520円)を聴きながら、じっくり観ていました。
鑑賞所要時間は1時間20分ほど。

出口を出てすぐのショップで、ついついお買い物^^

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ルルイの『生き残るには脳が足りない』絵葉書

このブロンズ像にビビッときた方は、諸星大二郎のマンガ『とりかえっ子の話』(『グリムのような物語 スノウホワイト』所収。東京創元社)をぜひ読みましょう。秀作です。

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一筆箋

人間の苛み手として登場する異形たちはひょうきんで可愛げがあり、妖怪に近いノリ。
宗教画として描かれてはいますが、画家たちの主眼は彼らの生物多様性を描くことにあったようにも思えます。
のっぺりと単調に描かれた人間より、よほど魅力的な異形たち。
彼らはきっと、宗教がついにコントロールしきれなかった人間の本能の落とし子なのでしょう。

奥のほうのショップには、本家のヒエロニムス・ボスの異形グッズがありました。『快楽の園』のツリーマンや椅子に座った悪魔を模したストラップ、フィギュアなど。

久しぶりに渋谷に出たので、宮益坂のビストロ、コンコンブルでランチを食べて帰りました。

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1000円の日替わりランチ。この日は豚胸肉のトマト煮込み

サラダには名物の人参サラダも乗っています。
デザートのパンプディングはお酒が利いて大人向け。

若いころ渋谷で働いていて、職場の方に、このお店で誕生会をしていただいたことがありました。
なつかしい味です。
会社はなくなってしまいましたが、あのころの皆さん、今もどうぞお元気で^^


posted by まさの at 18:03 | 展覧会・音楽会

2017年08月03日

『池山れい展』を観にいきました

西荻窪の陶芸教室T−ROOMSでお知り合いになった日本画家・池山れいさんの個展を観てきました。

作品タイトルは共通して【とある風景】。
その一部をご紹介します(画像掲載はご本人の許可を得ています)。

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無垢材への彩色。水紋のように浮かぶ木目がもはや木目ではなく幻想的。
画像1枚めと5枚めは横にながーい作品。
一緒に行った子どもは4枚めに魅せられて「霧の中にいるみたい」と、じーっと眺めていました。

すべての作品で、使われている青は一種類だそうです。
練り方や絵具を作る温度などを変えて濃淡をつけるとのこと。

一種類の青からこんなにたくさんの表情が引き出せるなんて、驚きです。

わたしは日本画で使われる岩絵具の青が大好き。
使いもしないのに絵具だけ買って、眺めて喜んでいたり。
なので、池山さんと、青の無辺大の魅力を湛える池山さん作品との出会いは、とても嬉しいことでした。
意外な趣味の一致もありましたし^^
(追記:池山さんがこの作品群で使ってらっしゃる絵具は「ベロ藍」という鉄イオン化合物です)

会場は立川のたましんギャラリーでした。

今回の会期はすでに終了していますが、今後も京都や東京で個展を開いていかれるとのこと。
その折には、またご紹介させていただきたいと思います。


posted by まさの at 00:58 | 展覧会・音楽会

2017年04月16日

『マタイ受難曲』あれこれ

小学生のころ、合唱団に入っていました。
合同演奏会というのがあって、どこかの合唱団が『嘆きつ奥津城(おくつき)に』という歌を歌いました。
なんだかすごい歌があるんだなあ、と驚いたのを覚えています。
歌った合唱団の名前も、歌詞が何語だったのかも忘れてしまいましたが、タイトルだけは、大人になってからも忘れられませんでした。

ある日クラシック好きの父と話していて、ふとこのタイトルのことを口にすると、

「それはバッハの『マタイ受難曲』最終合唱だろう」

と、カール・リヒター指揮によるバッハ『マタイ受難曲』抜粋のテープを貸してくれたのです。

意外なときに意外な人から(父ごめん)むかし惹かれた歌との再会を果たさせてもらったのでした。

その後、カール・リヒター版の全曲録音を聴きました。

『マタイ受難曲』はイエスの受難を描いた宗教音楽のひとつで、バッハの作曲によるものが有名。
十字架刑で死んだイエスを悼む場面が、終曲の最終合唱です。
今は『嘆きつ奥津城に』とは呼ばず、シンプルに『第68曲 合唱』というようです。

宗教音楽といっても、全編を通じて「キリスト教バンザイ!」という調子ではありません。
愛する者の安らかな眠りを願いながら生前の苦悩をしのび、その苦悩を自分のものとして抱いていこうとする静かな決意が、心の深いところに触れてきます。

いちどは生演奏で聴きたいと思っていた『マタイ受難曲』。
バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)(※音声が出るサイト)の公演があると知り、行って来ました。
指揮者はBCJ主催の鈴木雅明。
会場は初台のオペラシティで、席は1階の28列でした。
全曲演奏のため、第1部と第2部の間に休憩を挟み、18:30から3時間以上の長丁場。
ドイツ文化に詳しい編集者のMさんが付き合ってくれました。

リヒター版のように最初の合唱から盛り上がるのを予想していたら、ゆったりと抑えたトーンの、端正なマタイでした。
ふだんクラシックを聴かないド素人のわたしは、同じ曲が指揮者によってこうも印象が違うのか、とびっくり。
ソプラノのハンナ・モリスン、アルトパートを歌うカウンターテナーのロビン・ブレイズの声は後ろの席までばっちり届き、バスの加耒徹によるペテロの3回の否認、ピラトの妻の台詞を歌ったソプラノの女性の声もよく聞こえました。
特にロビン・ブレイズの『アリア 第6曲』、悔悛と悔恨を歌いあげる高く澄んだ声がすばらしく、骨から洗われるような感じがしました。

『第68曲 合唱』が終わったときは22時近く。
久々に会ったMさんと初台の駅で長い立ち話をした後、これまた久々の満員電車で帰宅しました。

今回、演奏を鑑賞するためにひもといた本などを以下にご紹介。

マタイ受難曲
マタイ受難曲
(著:磯山雅)

ひとつひとつの曲について、前後の曲との関連性や背景についての丁寧な解説があり、作品の枠組みを理解するのを助けてくれます。
キリスト者のルイスが『ナルニア国物語』を、遠藤周作が『沈黙』を書いたように、バッハは自分の信仰と神についての思索を『マタイ受難曲』に注ぎ込んだのだ、ということが、この本を読んでわかりました。
バッハは ♯ 記号を十字架とみなして作曲したらしい、などトリビア的な知識も面白かったです。
巻末に『マタイ受難曲』全歌詞(ドイツ語&日本語訳)がついているのもありがたい。

残念ながら版元に在庫なしとのことですが、中古でも手に入れたい一冊。


CDブック NHK 新ドイツ語入門
CDブック NHK 新ドイツ語入門
著:相澤啓一

火星人のピポとドイツ人の女の子ティナの交流を描いたドイツ語教本。
文法、基本単語、会話など、すべての要素が1冊にぎゅっと詰まっていて、第50課まであります。
元はNHKのテレビで放映されていた番組をもとにつくられた本。
著者がこちらで放映時の画像をアップして下さっているので、かわいいピポとティナのパペットアニメーションも視聴可能です。

この本を一課終えてはマタイを聴き・・・の繰り返しで、現在も勉強中。


駈込み訴え
駈込み訴え
著:太宰治

イギリスではイースターに「シムネルケーキ」というマジパン入りフルーツケーキを作る風習があるそうですが、ケーキの上に乗せるマジパンの飾りは11個。なぜ11かというと、イエスの12人の弟子から、ユダを引いた数なのだそうです。
13という数字が不吉なのも、最後の晩餐でイエスを含む13人が食卓についたとき、ユダが13番目の席に座ったからだ、という説が元だとか。

そんな嫌われ者の代名詞のようなユダを、妄執めいた愛の反動でイエスを売る悲しい男として描いた、ユダの一人称小説。
青空文庫でも読めます。

そんなこんな、いろいろな扉を開いてくれたマタイ受難曲。
今後も機会があれば公演に足を運びたいと思います^^

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posted by まさの at 23:39 | TrackBack(0) | 展覧会・音楽会