2017年04月16日

『マタイ受難曲』あれこれ

小学生のころ、合唱団に入っていました。
合同演奏会というのがあって、どこかの合唱団が『嘆きつ奥津城(おくつき)に』という歌を歌いました。
なんだかすごい歌があるんだなあ、と驚いたのを覚えています。
歌った合唱団の名前も、歌詞が何語だったのかも忘れてしまいましたが、タイトルだけは、大人になってからも忘れられませんでした。

ある日クラシック好きの父と話していて、ふとこのタイトルのことを口にすると、

「それはバッハの『マタイ受難曲』最終合唱だろう」

と、カール・リヒター指揮によるバッハ『マタイ受難曲』抜粋のテープを貸してくれたのです。

意外なときに意外な人から(父ごめん)むかし惹かれた歌との再会を果たさせてもらったのでした。

その後、カール・リヒター版の全曲録音を聴きました。

『マタイ受難曲』はイエスの受難を描いた宗教音楽のひとつで、バッハの作曲によるものが有名。
十字架刑で死んだイエスを悼む場面が、終曲の最終合唱です。
今は『嘆きつ奥津城に』とは呼ばず、シンプルに『第68曲 合唱』というようです。

宗教音楽といっても、全編を通じて「キリスト教バンザイ!」という調子ではありません。
愛する者の安らかな眠りを願いながら生前の苦悩をしのび、その苦悩を自分のものとして抱いていこうとする静かな決意が、心の深いところに触れてきます。

いちどは生演奏で聴きたいと思っていた『マタイ受難曲』。
バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)(※音声が出るサイト)の公演があると知り、行って来ました。
指揮者はBCJ主催の鈴木雅明。
会場は初台のオペラシティで、席は1階の28列でした。
全曲演奏のため、第1部と第2部の間に休憩を挟み、18:30から3時間以上の長丁場。
ドイツ文化に詳しい編集者のMさんが付き合ってくれました。

リヒター版のように最初の合唱から盛り上がるのを予想していたら、ゆったりと抑えたトーンの、端正なマタイでした。
ふだんクラシックを聴かないド素人のわたしは、同じ曲が指揮者によってこうも印象が違うのか、とびっくり。
ソプラノのハンナ・モリスン、アルトパートを歌うカウンターテナーのロビン・ブレイズの声は後ろの席までばっちり届き、バスの加耒徹によるペテロの3回の否認、ピラトの妻の台詞を歌ったソプラノの女性の声もよく聞こえました。
特にロビン・ブレイズの『アリア 第6曲』、悔悛と悔恨を歌いあげる高く澄んだ声がすばらしく、骨から洗われるような感じがしました。

『第68曲 合唱』が終わったときは22時近く。
久々に会ったMさんと初台の駅で長い立ち話をした後、これまた久々の満員電車で帰宅しました。

今回、演奏を鑑賞するためにひもといた本などを以下にご紹介。

マタイ受難曲
マタイ受難曲
(著:磯山雅)

ひとつひとつの曲について、前後の曲との関連性や背景についての丁寧な解説があり、作品の枠組みを理解するのを助けてくれます。
キリスト者のルイスが『ナルニア国物語』を、遠藤周作が『沈黙』を書いたように、バッハは自分の信仰と神についての思索を『マタイ受難曲』に注ぎ込んだのだ、ということが、この本を読んでわかりました。
バッハは ♯ 記号を十字架とみなして作曲したらしい、などトリビア的な知識も面白かったです。
巻末に『マタイ受難曲』全歌詞(ドイツ語&日本語訳)がついているのもありがたい。

残念ながら版元に在庫なしとのことですが、中古でも手に入れたい一冊。


CDブック NHK 新ドイツ語入門
CDブック NHK 新ドイツ語入門
著:相澤啓一

火星人のピポとドイツ人の女の子ティナの交流を描いたドイツ語教本。
文法、基本単語、会話など、すべての要素が1冊にぎゅっと詰まっていて、第50課まであります。
元はNHKのテレビで放映されていた番組をもとにつくられた本。
著者がこちらで放映時の画像をアップして下さっているので、かわいいピポとティナのパペットアニメーションも視聴可能です。

この本を一課終えてはマタイを聴き・・・の繰り返しで、現在も勉強中。


駈込み訴え
駈込み訴え
著:太宰治

イギリスではイースターに「シムネルケーキ」というマジパン入りフルーツケーキを作る風習があるそうですが、ケーキの上に乗せるマジパンの飾りは11個。なぜ11かというと、イエスの12人の弟子から、ユダを引いた数なのだそうです。
13という数字が不吉なのも、最後の晩餐でイエスを含む13人が食卓についたとき、ユダが13番目の席に座ったからだ、という説が元だとか。

そんな嫌われ者の代名詞のようなユダを、妄執めいた愛の反動でイエスを売る悲しい男として描いた、ユダの一人称小説。
青空文庫でも読めます。

そんなこんな、いろいろな扉を開いてくれたマタイ受難曲。
今後も機会があれば公演に足を運びたいと思います^^

タグ: 音楽会

posted by まさの at 23:39 | TrackBack(0) | 展覧会・音楽会
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